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趣味で描いたらくがきを公開しています。主に日記用に使っています。たまにお仕事情報。
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見た夢の話

大学時代の恩師が入院したとのことで、病院に見舞いに行った。
白いカーテンがふわりと舞う病室。
ベッドの上の枕にもたれかかるようにして先生はこちらを見た。

「2年ぶりかな」
「そうですね、お加減はいかがですか」
顔色を見る限り聞いていたよりは体調は悪くないようだ。
「もうすぐお前は死ぬ、と死神が毎日枕元に来て囁くんだ」
「御冗談を」
脳神経学が専門の先生にしては、かなり変わった冗談である。
「死神なんて、柄にもないことを言って」
「本当なんだ。そうだな、そろそろ来る時間かもしれない」
「まさか」

ふと横を見ると、いた。
いたといっても人間が、である。
僕の横に立っていた少女は無言で先生を見つめていた。
いつからいたんだろう、気が付かなかった。
肩まででそろえた薄い色の髪、白い肌、端正な顔立ち。
こんな子がいたらすぐに気づきそうなものなのに。

「あなた、2日後のちょうど今頃に死ぬわね」

いつの間にか少女はこちらを見ていた。

「は?」

「あなたの方が早い。明後日よ」
「何が?」
「死ぬのが」

あまり関わってはいけないタイプの子なのかもしれない。

先生に一言断りを入れ少女とともに病室を出た。

「君ね、失礼だよ。初対面の人間に対して…」
「家。山の中腹に建っているでしょう。」
「…」
確かに建っている。
一昨年引っ越したのだ、僕が就職し母の実家から一軒家に。
「立っていたら何なの」
と僕は聞き返した。

「2日後に、何か…そう、大雨か…地震。それで地盤がずれる。」
少女は真顔だった。
「あなたの家は土砂に押しつぶされる、そしてその中にいたあなたは死ぬ」


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別に少女の言うことを信じたわけではない。
断じて違う。
が、
「どうやったら死なずに済むんだ」
と口を突いて出てしまった。
「どうやっても死ぬ」
「じゃあ、明後日まで家じゃないどこか遠く…ホテルにでも泊まれば」
「別のところに移動すれば別の理由で死ぬ」
何なのだ。
「海辺に行けば波に巻き込まれるし、街に出れば火事に巻き込まれる。
どうしたって無駄よ」
何なのだ。
「残りの時間有意義に過ごしなさい」
どうしろというのだ。

少女はそういうと一瞬で僕の視界から消えた。
見失ったのかと思ったが、一直線の廊下で、真ん前に立っていた人間を見失うわけがなかった。

--------------------------------------------------------------------------------------------

「押しつぶされるのは…苦しそうだから嫌だな…」
家に帰る道すがら、そんなことを考えていた。
玄関のドアを開けると母もさっき帰ってきたところのようで
慌ただしく夕食の用意をしていた。
いつもなら「手伝うよ、皿どれがいる?」とか「ちょっと部屋に荷物置きに行く」とか
何か言葉が出てきそうなものだったのに、つい手が出ていた。

母を玄関の外に押し出したのだ。

「逃げろ」

あの少女が言う通りなら、家が押しつぶされたとき一緒に母がいたらどうなる?
それが急に怖くなった。

「何言ってんの、あんた」
「いいから、あと2日家に帰ってくるな」
ああ、どういえばいい。
どうすれば巻き込まずに済む。

「あ、あの、あれだよ。
大学の研究室友達がさ、みんなで遊びに来たいって言ってて」
「大人数だろ?母さんの邪魔になっちゃうかと思ってさ」
「つい勢いづいて言っちまったけど」
「家にいないほうがいいってこと」

自分でも思うが嘘が下手だ。

母は怪訝な顔をしていたが、納得したようだった。
「仕方ないね、じゃあ私も少し泊りがけで遊びに行ってくるわよ」
ちょうど明日明後日が祝日であることに心から感謝した。
カレンダーに向かってありがとうと言いたい気分になったのは初めてだ。

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一人になった家の中で僕は今から最後までの間に何が出来るか考えた。
目一杯好きなことをする?
好きなものをたらふく食べる?
友人に電話する?
それとも別れた彼女にメールする?
それはないな。

色々考えた。何をしてもし足りない気がした。
今までの僕は一生懸命だったろうか。
今を生きることに一生懸命だったろうか。
なぜいつも今日が明日に続いていると思っていたんだろうか。
もっと何かできなかったんだろうか。





考えて、考えて、そして、気が付くと夕暮れ時になっていた。



「えっ!?」

信じられない。
考え込んだまま寝てしまったのだ。
しかも昨日の夜からだから、今が夕方で、嘘だろ?
もうあと一日しかない。
いや一日もないのかもしれない。

でも…

夕暮れをぼうっと見つめていた。
日が落ちていくさまはとてもきれいで、家に帰っていく子供の声も
少しづつ冷たくなっていく風も、これが最後かと思うと
なにかとても愛おしくて仕方なかった。

ただ外を眺めながら僕はその時を待った。

今が、僕の横を通り過ぎていく。
何も感じなければ、何も残らない今が。
何かを感じれは、いつまでも残る今が。
全ての人に平等に訪れる今が。



「ああ、幸せってこういう感覚なのかもしれない」



そこで僕は意識を失った。


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これは見た夢の話だ。

ベッドから飛び起きて僕は胸を撫で下ろす。
生きていることを実感し安堵する。

何か大切なことに触れた気がしたが、何だったか思い出せない。

さあ、今日も新しい一日が始まる。





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